カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
ふたりが連絡を取り合っていると知って、心に若干のモヤがかかった気がしたが、すぐに気持ちを切り替えて振り払った。
そのとき、ふと、彼の表情がやや暗く見えた。気にしなければ見逃すほどだが、やはりいつもより元気がない気がする。
「あの、お疲れですか?」
「え?どうして?」
「なんだか、表情が暗い気がして」
「はは。顔に出てた?」
心配になって見つめていると、彼は静かに語り出す。
「実は、和カフェの件で親父がちょっとお怒りでさ。あっちは俺を、新規の事業開拓に勤しむばかりで美澄屋の品質を蔑ろにしてると思ってる。「美澄屋を安売りするな」って怒られた」
「そんな」
私は、毎日千里さんが店のためを思って働いている姿を近くで見ている。家に帰ってきてからも頭から仕事が抜けたことはないし、一切妥協をしないで真摯に向き合ってきた。
新しい事業を始めるのも、時代に合わせた着物のあり方を模索して、美澄屋を後世に残そうとしているからなのに。