カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
「店を守ってきたプライドと受け継いできた重みがあるから、親父は親父の考えがあるとは分かってるんだけどね。……ごめん、愚痴をこぼすつもりはなかったんだ」
弱々しく苦笑する彼は、今までは弱さを見せなかった。今回の件は、私にぽろっと口にしてしまうほどつらかったのだろう。
無意識のうちに、手を握っていた。向かい合わせで座っていた彼は、目を見開いている。
「大丈夫です。千里さんが美澄屋を大切にしているのは、よくわかっています。私はまだまだ素人で、力になれないところばかりですけど……あなたの選択が間違ってないって信じていますから」
知識も接客の技術も未熟な私は、ただ、彼を支えて背中を押すしかできない。
それでも、ここには決して離れない味方がいるんだと知って欲しい。
そのとき。彼が、すっと隣へと距離を縮めた。
「ありがとう」
「少しは楽になりましたか?」
「うん。今のはグッときた」