カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~


「店を守ってきたプライドと受け継いできた重みがあるから、親父は親父の考えがあるとは分かってるんだけどね。……ごめん、愚痴をこぼすつもりはなかったんだ」


 弱々しく苦笑する彼は、今までは弱さを見せなかった。今回の件は、私にぽろっと口にしてしまうほどつらかったのだろう。

 無意識のうちに、手を握っていた。向かい合わせで座っていた彼は、目を見開いている。


「大丈夫です。千里さんが美澄屋を大切にしているのは、よくわかっています。私はまだまだ素人で、力になれないところばかりですけど……あなたの選択が間違ってないって信じていますから」


 知識も接客の技術も未熟な私は、ただ、彼を支えて背中を押すしかできない。

 それでも、ここには決して離れない味方がいるんだと知って欲しい。

 そのとき。彼が、すっと隣へと距離を縮めた。


「ありがとう」

「少しは楽になりましたか?」

「うん。今のはグッときた」

< 99 / 158 >

この作品をシェア

pagetop