真夜中だけの、秘密のキス
「──なってくれるよね、久木瑛翔君?」
「……はい」
無表情の久木君は、まるで選ばれることを知っていたかのように、静かにうなずいた。
一瞬、私のことを視界に入れ、スッと目をそらすと。そのまま椿の姫たちと姿を消した。
取り残された私は呆然と廊下の片隅で立ちすくむ。
この学校は元々女子高で。共学になったのは数年前。女子の方が比率が高いとはいえ、それでも男子は100人以上いるはず。
その中から、どうして久木君が選ばれないといけなかったの?
行き場を失ったプレゼントの紙袋が、むなしく私の手元で揺れていた。
*
「久木君が椿の姫から指名されたって、学校中の噂になってるよ」
教室に戻り、焦った顔の茉莉恵ちゃんから声をかけられる。
「玲香ちゃん、どうするの?」
「どうするも何も。もう終わりだよ……。私の片想い、やっぱり叶わないんだ」
「でも。チョコ、せっかく用意したのに」
「仕方ないよ。生徒会長には誰も逆らえないから。──それより、茉莉恵ちゃんはもうカレに渡したの?」
「あ……うん、一応ね」
なぜか言葉を濁しているのが気になったけど、茉莉恵ちゃんは何か用事があるのか、すぐに教室を出てしまった。