真夜中だけの、秘密のキス

「──なってくれるよね、久木瑛翔君?」

「……はい」


無表情の久木君は、まるで選ばれることを知っていたかのように、静かにうなずいた。

一瞬、私のことを視界に入れ、スッと目をそらすと。そのまま椿の姫たちと姿を消した。

取り残された私は呆然と廊下の片隅で立ちすくむ。


この学校は元々女子高で。共学になったのは数年前。女子の方が比率が高いとはいえ、それでも男子は100人以上いるはず。

その中から、どうして久木君が選ばれないといけなかったの?


行き場を失ったプレゼントの紙袋が、むなしく私の手元で揺れていた。





「久木君が椿の姫から指名されたって、学校中の噂になってるよ」


教室に戻り、焦った顔の茉莉恵ちゃんから声をかけられる。


「玲香ちゃん、どうするの?」

「どうするも何も。もう終わりだよ……。私の片想い、やっぱり叶わないんだ」

「でも。チョコ、せっかく用意したのに」

「仕方ないよ。生徒会長には誰も逆らえないから。──それより、茉莉恵ちゃんはもうカレに渡したの?」

「あ……うん、一応ね」


なぜか言葉を濁しているのが気になったけど、茉莉恵ちゃんは何か用事があるのか、すぐに教室を出てしまった。
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