真夜中だけの、秘密のキス
「昼休み、話聞けなくて悪かった。何だった?」
何だった、って。だいたいわかっている癖に。
ひどいよ。
久木君はもう、華やかな“椿の姫”の言いなりで。
目立たない存在の私なんて、どうでもいいはず。
じわ…と涙がにじんでくる。
「──何で泣いてんの」
「何でもない。見ないで……お願い」
私は常に綺麗な椿の姫とは違う。
いつも微笑んでいて、余裕のある人とは違うから。
私の頬にこぼれた涙を、遠慮がちに指で拭った久木君。
どこか困惑したような顔で、私の耳元へ唇を寄せて言った。
「今夜、玲香の部屋で話そう。椿の姫に見つからないように」