脆い記憶
思い出話をしすぎたようだ
いつの間にかすっかり日も落ちて
あたりは暗くなっていた
「さ、うちに帰ろっか」
「そうだね」
スカートについた土をはらいながら立ち上がる
「祐樹くんは元気にしてるの?」
私の横を歩くこうちゃんの顔を見た
「・・・うん。してるよ」
そう話すこうちゃんが少し寂しそうに笑ってる
「祐樹はな婚約したんよ。子供もできたらしい。俺、おじさんになるんやで」
「母さんも孫の顔みたかったやろうな」と遠い目をした後にニコっと笑ったこうちゃんの横顔をみてふと思い出した
『そうだ・・・お母さん亡くなったんだ』
なんて事を忘れていたんだろう
変な事を言ってしまう前に思い出してよかった
「お母さんもきっと喜んでるだろうね。きっとお孫さんの誕生を見守ってくれてるよ」
「そうやといいな〜」
ニーッと笑いながら夜空に手を伸ばしたこうちゃんの瞳からツーっと光るものが流れた
さっき寂しそうに笑ったのは
お母さんの事を想ったからだろう
私とこうちゃんが初めてキスをした日
あの日はこうちゃんのお母さんのお葬式の後だった
だからこうちゃんは赤い目をしていたんだ
声を殺して震えるこうちゃんになんて声をかけてあげればいいかわからなくて
どうやって涙を止めてあげたらいいのかわからなくて
つい私からキスをしてしまった
『私はこうちゃんの側にいる』とどう伝えたらいいのかわからなかった
どうしたら少しは安心してくれるかわからなかった
「・・・晴?どうした急に立ち止まって」
こうちゃんの声にハッとする
「晴、大丈夫?」
こうちゃんの声で気づいたけど
無意識に涙が流れていたようだ
「ごめん、こうちゃんのお母さんのことを思い出してたらつい・・・」
「そっか。ありがとうね」と笑いながら私の涙を指で何度も何度も拭ってくれる
あの日、事故に遭った日から今日までは私ばかりが不幸だと思って生きてきた
でも
それは大間違いで
私と同じように色んなものを背負って生きてる人がいるんだとわかった
自分の愚かさを痛感して胸が痛くなる
こうちゃんもこんなに傷ついてるのに
私のことばかり心配して
優しい声をかけてくれる
「こうちゃんは素敵な人だね」
つい声に出してしまったけど
後悔はしてない
だっておかしな事は言ってないから
「こうちゃんもいっぱい辛い経験をして一人で耐えてきたんだよね。それなのに私はこうちゃんの事まで忘れて自分一人だけが不幸だと思い込んで生きていたなんて・・・こうちゃん、ごめんね。あの日『私は側にいるよ』って約束したのに約束を守らなかった。ごめんなさい」
こんなに精一杯生きてきた人の前で私は自分のことばかり考えて不幸面していた事が惨めで恥ずかしくて涙が出てきた
そんな情けない涙を見られたくなくて顔を覆った
「晴、泣かんといて?晴だって一人で戦ってきたんやろ?俺はわかってるつもりやで?」
「それに・・・」何か続きを話そうとしたこうちゃんがふと私の後ろに目を向けた
振り向いてこうちゃんの目線の先を見てみる
目線の先には大きな音を響かせて赤く点滅する踏切があった
今にもゆっくりと遮断機がおりようとしている
次に見えたのはこうちゃんの後ろ姿
こうちゃんが踏切に向かって走っている後ろ姿
もうすぐ踏切が完全に下りてあっという間に電車が通過するだろう
急いでこうちゃんの腕を掴もうと手を伸ばした
でも
少し遅かった
こうちゃんの腕は私の指の間をすり抜けていった
「こうちゃん!!」
こうちゃんを呼ぶことしかできない
脚がすくんで前に出ない
こうちゃん
どうして?
『もう間に合わない』
そう心で叫んだ時
私の記憶の枝が大きく揺れた
あの日も
今日の夕立のように強い雨が降っていた
私が事故に遭った日も
今みたいに私はこうちゃんを追ってたんだ
何度もこうちゃんの名前を叫んでいた
あの日はちゃんとこうちゃんの腕を掴めたんだ
この手でちゃんと掴めたんだ
思いきりこうちゃんの腕を引いた
私の力全てを出して引っ張った
私に強く引かれたこうちゃんは私の後ろで尻餅をついた
私が電車と接触する瞬間こうちゃんと目が合った
あの日も目を赤くさせてた
電車に飛び込む前から泣いてたんだね
こうちゃんはあの日も戦っていた
いや、あの日以前からずっと戦ってたんだよね
いつの間にかすっかり日も落ちて
あたりは暗くなっていた
「さ、うちに帰ろっか」
「そうだね」
スカートについた土をはらいながら立ち上がる
「祐樹くんは元気にしてるの?」
私の横を歩くこうちゃんの顔を見た
「・・・うん。してるよ」
そう話すこうちゃんが少し寂しそうに笑ってる
「祐樹はな婚約したんよ。子供もできたらしい。俺、おじさんになるんやで」
「母さんも孫の顔みたかったやろうな」と遠い目をした後にニコっと笑ったこうちゃんの横顔をみてふと思い出した
『そうだ・・・お母さん亡くなったんだ』
なんて事を忘れていたんだろう
変な事を言ってしまう前に思い出してよかった
「お母さんもきっと喜んでるだろうね。きっとお孫さんの誕生を見守ってくれてるよ」
「そうやといいな〜」
ニーッと笑いながら夜空に手を伸ばしたこうちゃんの瞳からツーっと光るものが流れた
さっき寂しそうに笑ったのは
お母さんの事を想ったからだろう
私とこうちゃんが初めてキスをした日
あの日はこうちゃんのお母さんのお葬式の後だった
だからこうちゃんは赤い目をしていたんだ
声を殺して震えるこうちゃんになんて声をかけてあげればいいかわからなくて
どうやって涙を止めてあげたらいいのかわからなくて
つい私からキスをしてしまった
『私はこうちゃんの側にいる』とどう伝えたらいいのかわからなかった
どうしたら少しは安心してくれるかわからなかった
「・・・晴?どうした急に立ち止まって」
こうちゃんの声にハッとする
「晴、大丈夫?」
こうちゃんの声で気づいたけど
無意識に涙が流れていたようだ
「ごめん、こうちゃんのお母さんのことを思い出してたらつい・・・」
「そっか。ありがとうね」と笑いながら私の涙を指で何度も何度も拭ってくれる
あの日、事故に遭った日から今日までは私ばかりが不幸だと思って生きてきた
でも
それは大間違いで
私と同じように色んなものを背負って生きてる人がいるんだとわかった
自分の愚かさを痛感して胸が痛くなる
こうちゃんもこんなに傷ついてるのに
私のことばかり心配して
優しい声をかけてくれる
「こうちゃんは素敵な人だね」
つい声に出してしまったけど
後悔はしてない
だっておかしな事は言ってないから
「こうちゃんもいっぱい辛い経験をして一人で耐えてきたんだよね。それなのに私はこうちゃんの事まで忘れて自分一人だけが不幸だと思い込んで生きていたなんて・・・こうちゃん、ごめんね。あの日『私は側にいるよ』って約束したのに約束を守らなかった。ごめんなさい」
こんなに精一杯生きてきた人の前で私は自分のことばかり考えて不幸面していた事が惨めで恥ずかしくて涙が出てきた
そんな情けない涙を見られたくなくて顔を覆った
「晴、泣かんといて?晴だって一人で戦ってきたんやろ?俺はわかってるつもりやで?」
「それに・・・」何か続きを話そうとしたこうちゃんがふと私の後ろに目を向けた
振り向いてこうちゃんの目線の先を見てみる
目線の先には大きな音を響かせて赤く点滅する踏切があった
今にもゆっくりと遮断機がおりようとしている
次に見えたのはこうちゃんの後ろ姿
こうちゃんが踏切に向かって走っている後ろ姿
もうすぐ踏切が完全に下りてあっという間に電車が通過するだろう
急いでこうちゃんの腕を掴もうと手を伸ばした
でも
少し遅かった
こうちゃんの腕は私の指の間をすり抜けていった
「こうちゃん!!」
こうちゃんを呼ぶことしかできない
脚がすくんで前に出ない
こうちゃん
どうして?
『もう間に合わない』
そう心で叫んだ時
私の記憶の枝が大きく揺れた
あの日も
今日の夕立のように強い雨が降っていた
私が事故に遭った日も
今みたいに私はこうちゃんを追ってたんだ
何度もこうちゃんの名前を叫んでいた
あの日はちゃんとこうちゃんの腕を掴めたんだ
この手でちゃんと掴めたんだ
思いきりこうちゃんの腕を引いた
私の力全てを出して引っ張った
私に強く引かれたこうちゃんは私の後ろで尻餅をついた
私が電車と接触する瞬間こうちゃんと目が合った
あの日も目を赤くさせてた
電車に飛び込む前から泣いてたんだね
こうちゃんはあの日も戦っていた
いや、あの日以前からずっと戦ってたんだよね