脆い記憶
ぎゅっと目をつぶって
耳を塞いで
地面にしゃがみ込んだ

もう目を開けられない
耳を塞いでる手は二度と離したくない


周りの音がなにも聞こえないように
自分の声だけが聞こえるように
叫んで
泣いた


何も聞きたくない
何も見たくない

私が最後に見たもの
聞いたものは
こうちゃんだけがいい
こうちゃんの姿と優しい声だけを目と耳に残してこのまま消えてしまいたい


「・・・・・晴!!!」


こうちゃんが呼ぶ声が聞こえた気がして反射的に目を開いてしまった

目の前には息を切らしてるこうちゃんがいた

「・・・なんで・・・なんで!」

なんであんな事をしたんだ!と殴ってやりたくなった

でも
やっぱりどうでもいい

目の前にこうちゃんがいる
もうそれだけでいい
その事実を受け止めるだけで心が精一杯で
息苦しい


「晴、ごめん、無茶した。ごめんな」

「・・・なんで、何がしたいの・・・もう・・・あの日も、今も・・・生きててよかった・・・」

「ははは・・・晴、ごめん。でも、思い出せたんやね」

笑うこうちゃんをジッと睨みつけた

何が面白いの?
こんなに心配させておいて!

「もしかして・・・あの事故の日を思い出させたくてこんな事したの!?」

こうちゃんがコクンと頷くと同時に反射的に私の平手打ちが炸裂した

「ふざけていい事と悪いことぐらいわからないの!?今もそうだけど、あの日も!なんで同じことをして私を心配させるの!?言葉で言ってよ!こうちゃんが居なくなっちゃったら言葉で伝えられないんだよ!?会話できないんだよ!?一緒に泣くことも、触れることも、抱きしめる事もできなくなるの!なんでわかってくれな・・・」

私が最後まで言い切れなくなるぐらいにこうちゃんは私の目の前で泣いていた

「晴、ごめん・・・ここまでせんと晴が思い出してくれへんと思ったんよ・・・ほんまにごめんな・・・あの日の事を自分の口からどう晴に伝えたらいいかわからんくなって・・・あの日も晴に俺の気持ちを打ち明けたかったんやけど・・・勇気が出んかった」

こうちゃんは一生懸命何かを伝えようとして口ごもった

何度涙を拭いても次々に溢れ出てくる涙にこうちゃんの言葉が全てさらわれていく

「こうちゃん、もうわかったから、立って?・・・帰ろうっか」

伸ばした私の手をこうちゃんは強く握り返して
「・・・ありがとう。ちゃんとあの日の事を話すから」と言ってくれた
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