脆い記憶
memory4. 側にいる
揺れるカーテンの隙間から
夜の涼しい風が流れてくる
今日の夕立でぐんと気温が下がったようだ
家に帰ってきてしばらく経つが
こうちゃんは風がよく当たる窓際に腰をおろしたきりずっと窓の外を眺めてる
「見てみ。雲ひとつなくて月が丸見えや。綺麗やな〜」
ついさっき線路に飛び込むフリをした人が何を呑気な。と言い返そうとした私の言葉を待たずにまたこうちゃんが口を開いた
「俺、あの日、死のうとした。晴の事も祐樹の事もみんなの事を見捨てて死のうとした」
あの日の事を話してと頼んだもののやっぱり聞きだすと辛いものがある
何を言ってあげればいいのかわからない
「母さんが病気で死んでからさ祐樹が精神を病んで祐樹まで体調を崩したんよ。学校にも行かんし、メシも食わん。挙げ句の果てに寝んくなっていった」
表情を変えずに淡々た話すこうちゃんの目は少し虚だ
「そんな祐樹をみたクソ親父がさ祐樹を病院に連れて行こうとした事があって、祐樹はめっちゃ抵抗してた。泣いて抵抗してたんやけどクソ親父は無理やり引きずってでも病院に連れて行こうとした。じゃあさ、祐樹が俺をみて『兄ちゃん!助けて』なんて言うもんやからついさ、親父を殴り飛ばしてしもたんよ」
正直スッキリした。とハハっと笑うこうちゃんの目は素直で笑えてない
「逆上した親父が俺を殴り返してきよって『アイツが死んだのも祐樹がこうなったのも全部お前のせいや!次は祐樹を殺すんか?お前が代わりに死ねばいい』って叫びよった」
こうちゃん
こんなに辛い話を淡々としないで
「クソ親父からすれば母さんが死んだのは俺のせいやったらしいわ」
こうちゃんは大きく息を吸ってから話を続けた
「この話、晴にしたことないねんけどさ、俺と祐樹は父親が違うんよ。俺は母さんの連子。祐樹は母さんとクソ親父との子供。親父にとってオレは親父になかなか懐かんし可愛くない邪魔な存在やったんやろうな」
出会った頃のこうちゃんはまるで自分は独りぼっちだと思ってるかのように
悲しく尖った空気を纏っていた
たぶんそれはこの背景があったからなんだと今初めて理解することができた気がした
「俺が中学にあがる頃には親父は仕事もまともにせんと家族に暴力を振るう事が増えてきてた。それから次第に母さんが体調を崩して入退院を繰り返すようになってさ。親父をあんな風にしてしまったのを俺のせいにしたかったんやろうな、親父は。まぁ実際そうなんかも知らん。そんな事を考えてるうちに母さんが死んで、、、」
ふと顔をあげてクルッと私の方をみたこうちゃんの顔は覚悟を決めたようなそんな顔をしていた
それがなんだか怖くて
悲しくなった
「このままやと俺と祐樹は親父に殺されると思った。でも、俺が消えれば親父は変わって祐樹だけでも平和に過ごせるようになるんちゃうかって思ってしまったんよ」
この人はこんなに悲しい事を一人で決めて
その自分の決意は間違ってないと信じてしまっていたのかと思うと胸が痛くなった
「私たちにこうちゃんを助けてあげる事はできなかったのかな。話してくれていれば何か少しは変わっていたかも・・・」
「晴たちと離れる事が唯一俺の胸に引っかかることやった。きっと沢山泣かせてしまう。祐樹にも辛い思いをさせてしまう。そうわかってたけどそれは一時期の事で時間が解決してくれてそのうち平和な時間が流れてくるんやって信じて疑わんかった。あの時の俺は他の考え方ができひんくなってたんよ」
ごめんな。と頭をさげたこうちゃんの肩に私は無意識に飛びついていた
広い肩を私なりに精一杯抱きしめた
「気づいてあげれなくてごめんね・・・私はこうちゃんが居なくなるなんて悲しいよ。耐えられない」
泣きつく私をぐいっと離して
こうちゃんは強く私の目を見つめた
「俺のせいで晴は大切な記憶を無くした。身体にも心にも深い深い傷を俺は負わせてしまったんやで?謝らなあかんのは俺なんやから、晴は謝らんといて・・・お願い・・・全部俺が悪いんやから」
「でもこうしてこうちゃんと再会できて、こうちゃんが時間をかけて私の記憶を連れて帰ってきてくれたんだよ。ありがとう。・・・こうちゃんが生きててくれてよかった」
ピンと張り詰めていたこうちゃんの糸がプツンと切れた音がした
綺麗な瞳から流れた大粒の涙が長く伸びた睫毛を光らせた
力なくうな垂れているこうちゃんは弱く震えながら泣いている
大きくて温かい背中を私の頼りない小さな手で一生懸命に撫でるけどこれだけじゃ足りない気がしてこうちゃんの頭を両腕で包んで私の胸を貸してあげた
こんな事しかできない
こうちゃんは男の人らしい大きな身体をもっている
でも
この身体でも抱え切れないほどの悲しみや傷を必死で背負いながら私を愛してくれていた
何も気づいてあげられなかった自分が腹立たしくて私まで泣いた
夜の涼しい風が流れてくる
今日の夕立でぐんと気温が下がったようだ
家に帰ってきてしばらく経つが
こうちゃんは風がよく当たる窓際に腰をおろしたきりずっと窓の外を眺めてる
「見てみ。雲ひとつなくて月が丸見えや。綺麗やな〜」
ついさっき線路に飛び込むフリをした人が何を呑気な。と言い返そうとした私の言葉を待たずにまたこうちゃんが口を開いた
「俺、あの日、死のうとした。晴の事も祐樹の事もみんなの事を見捨てて死のうとした」
あの日の事を話してと頼んだもののやっぱり聞きだすと辛いものがある
何を言ってあげればいいのかわからない
「母さんが病気で死んでからさ祐樹が精神を病んで祐樹まで体調を崩したんよ。学校にも行かんし、メシも食わん。挙げ句の果てに寝んくなっていった」
表情を変えずに淡々た話すこうちゃんの目は少し虚だ
「そんな祐樹をみたクソ親父がさ祐樹を病院に連れて行こうとした事があって、祐樹はめっちゃ抵抗してた。泣いて抵抗してたんやけどクソ親父は無理やり引きずってでも病院に連れて行こうとした。じゃあさ、祐樹が俺をみて『兄ちゃん!助けて』なんて言うもんやからついさ、親父を殴り飛ばしてしもたんよ」
正直スッキリした。とハハっと笑うこうちゃんの目は素直で笑えてない
「逆上した親父が俺を殴り返してきよって『アイツが死んだのも祐樹がこうなったのも全部お前のせいや!次は祐樹を殺すんか?お前が代わりに死ねばいい』って叫びよった」
こうちゃん
こんなに辛い話を淡々としないで
「クソ親父からすれば母さんが死んだのは俺のせいやったらしいわ」
こうちゃんは大きく息を吸ってから話を続けた
「この話、晴にしたことないねんけどさ、俺と祐樹は父親が違うんよ。俺は母さんの連子。祐樹は母さんとクソ親父との子供。親父にとってオレは親父になかなか懐かんし可愛くない邪魔な存在やったんやろうな」
出会った頃のこうちゃんはまるで自分は独りぼっちだと思ってるかのように
悲しく尖った空気を纏っていた
たぶんそれはこの背景があったからなんだと今初めて理解することができた気がした
「俺が中学にあがる頃には親父は仕事もまともにせんと家族に暴力を振るう事が増えてきてた。それから次第に母さんが体調を崩して入退院を繰り返すようになってさ。親父をあんな風にしてしまったのを俺のせいにしたかったんやろうな、親父は。まぁ実際そうなんかも知らん。そんな事を考えてるうちに母さんが死んで、、、」
ふと顔をあげてクルッと私の方をみたこうちゃんの顔は覚悟を決めたようなそんな顔をしていた
それがなんだか怖くて
悲しくなった
「このままやと俺と祐樹は親父に殺されると思った。でも、俺が消えれば親父は変わって祐樹だけでも平和に過ごせるようになるんちゃうかって思ってしまったんよ」
この人はこんなに悲しい事を一人で決めて
その自分の決意は間違ってないと信じてしまっていたのかと思うと胸が痛くなった
「私たちにこうちゃんを助けてあげる事はできなかったのかな。話してくれていれば何か少しは変わっていたかも・・・」
「晴たちと離れる事が唯一俺の胸に引っかかることやった。きっと沢山泣かせてしまう。祐樹にも辛い思いをさせてしまう。そうわかってたけどそれは一時期の事で時間が解決してくれてそのうち平和な時間が流れてくるんやって信じて疑わんかった。あの時の俺は他の考え方ができひんくなってたんよ」
ごめんな。と頭をさげたこうちゃんの肩に私は無意識に飛びついていた
広い肩を私なりに精一杯抱きしめた
「気づいてあげれなくてごめんね・・・私はこうちゃんが居なくなるなんて悲しいよ。耐えられない」
泣きつく私をぐいっと離して
こうちゃんは強く私の目を見つめた
「俺のせいで晴は大切な記憶を無くした。身体にも心にも深い深い傷を俺は負わせてしまったんやで?謝らなあかんのは俺なんやから、晴は謝らんといて・・・お願い・・・全部俺が悪いんやから」
「でもこうしてこうちゃんと再会できて、こうちゃんが時間をかけて私の記憶を連れて帰ってきてくれたんだよ。ありがとう。・・・こうちゃんが生きててくれてよかった」
ピンと張り詰めていたこうちゃんの糸がプツンと切れた音がした
綺麗な瞳から流れた大粒の涙が長く伸びた睫毛を光らせた
力なくうな垂れているこうちゃんは弱く震えながら泣いている
大きくて温かい背中を私の頼りない小さな手で一生懸命に撫でるけどこれだけじゃ足りない気がしてこうちゃんの頭を両腕で包んで私の胸を貸してあげた
こんな事しかできない
こうちゃんは男の人らしい大きな身体をもっている
でも
この身体でも抱え切れないほどの悲しみや傷を必死で背負いながら私を愛してくれていた
何も気づいてあげられなかった自分が腹立たしくて私まで泣いた