脆い記憶
体中が痛い

痛いのに脚が止まらない

こうちゃんはまだ病室にいるとお母さんが言ってた

すれ違った看護師さんにこうちゃんの場所を教えてもらった

「晴ちゃん!走らないで!待って!」

後ろからお母さんの声が聞こえるけど
止まることはできない


こうちゃん

こうちゃん


こうちゃんの事で頭がいっぱいで体の痛みをあまり感じない



「ガララ!」こうちゃんがいるはずの病室のドアを勢いよく開けた


「・・・晴ちゃん、無事でよかった・・・」

そこにいたのはこうちゃんと同じぐらいの背丈になった祐樹くんがいた

こうちゃんと同じように眉を下げて悲しそうに笑おうとしてる


「晴ちゃん、みてあげてよ。兄ちゃんの顔」

恐る恐るこうちゃんが横になってるベッドに近寄る


裸足で歩く私の足音だけが部屋中に響いてる


こうちゃんの顔は少し擦り傷はあるけどとてもキレイ

今にも目を開けて「ビックリした?」とでも言ってくれそう


「こうちゃん?ねぇ、なんで?ピアスを私に返してくれたのはこうちゃんでしょ?こうちゃんの部屋にも行ったし、ご飯も食べたじゃん!ねぇ?私の記憶を一緒に探してくれたよね?ねぇ・・・こうちゃん」

こうちゃんの手をぎゅっと握った


玄関先で別れるときに触れたときみたいに冷たい


「・・・大丈夫って言ったじゃん。ねぇ・・・寒くないって言ってたじゃんかぁ・・・」


私は泣き崩れてベッドのふちにおでこを当てたまま立てなくなった


本当に死んじゃったの?


じゃああの時間はなんだったの?


パタパタと足音が聞こえる

「・・・晴ちゃん!」

お母さんの声だ


「晴ちゃん、最期に兄ちゃんと会えたの?」

「・・・うん」

「話せた?」

「・・・うん」

「兄ちゃんの名前呼んであげてくれた?」

「・・・何度も何度も呼んだよ」

「そっか。ありがとう」


祐樹くんは私の言うことを疑わずに信じてくれた

こうちゃんと同じような笑顔で私に笑いかけてくれてる


兄弟だね
そっくりだよ


まだこうちゃんに言えてない事がある


「・・・こうちゃん、大好きだよ・・・好きって言って欲しかったんじゃないの?言ってあげたんだからさ、起きて、笑ってよぉ・・・愛してるよ、こうちゃん」


三人の嗚咽が部屋中に響く

それ以外の音が何もない


本当にこうちゃんはいなくなっちゃったんだ
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