脆い記憶
memory2. 濡れた手
高校1年生の秋

学校中は文化祭の準備真っ只中

私はいつも窓際に立って一人で外を眺めたり携帯をいじってる人の存在に気づいた

前髪が少し伸びて顔が隠れてるけど
それでもわかるキレイな横顔と柔らかそうな白い肌
背は高くて細身だが折ったシャツの袖から見える筋肉質な腕が意外だった


それがこうちゃんとの出会い


それからいつの間にかこうちゃんを目で追うようになっていった

携帯をいじる指
シャーペンを持つ指
授業中にクシャクシャと髪を触る手
癖だろうかよく首に手を掛けていたっけ


気づけば私はこうちゃんの手ばかり見ていた


文化祭の準備の為に放課後居残りをしたある日
廊下にある手洗い場で一人で顔を洗ってるこうちゃんをみつけたことがあった

洗い場のへりに置いてあったタオルがずるっと床に落ちるのが見えた

駆け寄ってこうちゃんの足元に落ちたタオルを拾い上げへりに戻そうとしたとき

「あっ・・・」
タオルに手を伸ばしたこうちゃんの手が私の手に重なった

すごくドキドキした

いつも見てる手が私の手に触れたのだから


「・・・ごめん、手濡れたな」

こうちゃんの手から私の手に移った水滴を手に持っていたタオルで拭いてくれた

こうちゃんの表情はどこか辛そうだった

目が少し赤い気がした
たぶん泣いた後だったんだと思う


「ねぇ・・・大丈夫?目が・・・」

「・・・何が?・・・じゃ」

少し濡れた髪を拭きながらこうちゃんは私から離れていったっけ
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