旦那様、離婚はいつにしましょうか~御曹司と清く正しい契約結婚~
 床の間側が上座のはずだ。年上かつ上司の彼が下座はおかしい。

 少し前にアメリカから帰国した彼だけど日本育ちだし、大東不動産の後継ぎとしての教育を受けてきただろうに、マナーを心得ていないはずがない。


「相馬さん、席を代わってください」
「いいから。今日は七瀬がゲストだからそっち」
「はぁ……」


 そうは言われても落ち着かないのに。

 とはいえ、仲居さんを待たせるのも忍びなく、私は素直に腰を下ろした。

 次々と並べられていく会席料理は見た目も美しく、上品に盛り付けられている。

 料亭なんて初めての私は、少々気圧され気味だ。


 相馬さんは日本酒の徳利を持ち、「七瀬」と私を促した。


「気がつかず失礼しました」


 私から注ぐべきだともうひとつの徳利を手にしたが、「そっち」とお猪口を視線で指示される。
 どうやら今日はお嬢さま扱いをしてもらえるらしい。


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