Phobiagift
私はこの楽園でアルと呼ばれている。


本名は分からない。


気づいたら知らない子達に囲まれて不思議そうに見つめられていた。


そして大人がやってきて私に質問をした。



『これまでの記憶はありますか?』


思い出そうと目を瞑る。
しかし何も分からない。


『いいえ…』


何かあるはずなのに。
なぜ思い出せないの?


頭の中にぽっかり穴が空いてるみたいに何も思い出せない。


混乱で涙が目に溜まっていく。


するといきなり私より少し身長の低い男の子が私のボロボロになったブラウスの袖を引く。


『あのねあのね!僕も一緒なの!ここに来る前の記憶、ないの!』


屈託の無い笑顔は何故か心を安らげると共に少し悲しいと言うより虚しい気がした。


『記憶が無いか、なら名前つけなきゃじゃん!と言っても俺もここに来る前の記憶ないんだけどな!!』


元気よく赤髪の少年が頭を撫でてくる。


すると大人の人が

『ではいつもどうり私が名前をつけますね。』


『嫌だ〜僕が決める〜』


さっきの男の子がいきなりの腕に抱きつく
大人の人は表情を変えないが飽きれてるのがわかる。


『面倒臭いので早く決めてください。』


その答えに男の子はまた笑顔を浮かべると、


『アルが良い!』


『はい…わかりました。伝えときます。あなたもアルという名前でいいですね。あっ申し遅れました。私はセイと言います。よろしくお願いしますね。では失礼します。』


私の話なのに私抜きで話が進んでいくまあ記憶がない私は考えてもろくな名前思いつかないと思うし頷く
でもどうしてアルなんだろう。


『名前、アル?なんで?』


質問するとやっと聞いてくれたかという顔をして私の手を2つとも強く握る。


『あのね!!僕不思議の国のアリスっていう本が好きなんだ。それで、さっきも読みながら廊下歩いてたら医務室のベットでアルを見つけたのそれでなんとなくアリスにてるなって思ったの!!』


確かに少年の肩にかけてあるバックからは少年が読めるとは思えない太さだが不思議の国のアリスという本が頭をのぞかせていた。

『ルは?』

『それは僕の名前から!!僕ねエルって言うの!!
ねえ僕達ペアになろ!』

ペアが何かわからないが取り敢えず頷く。


『じゃあ行こアル〜!!』

『へっ!?どこへ』


なかば強引に引っ張られる。


アンティーク調の廊下には規則的に並ぶ扉これも普通よりも大きい扉。


形状から察するにこれは古い大学?
あれ大学ってなんだろう。


そんなことを考えている間でもエル君に引っ張られ気づいたらひとつの部屋の前に止まっていた。


『ここが僕たちの部屋!!これまで独りで広すぎたの!これからよろしく、アル!!』


エル君はまた私に屈託の無い笑顔を見せ抱きつく。





この子は一体なんなんだ。


そしてこの頭に流れ込んでくるような


なんとなくふわふわとした感覚と、


悲しいような苦しいような感情。


今はもう失ってしまった過去で感じた事のあるようなもの…


(気持ち悪い)


気づくと私はエルを突き飛ばして走っていた。





自分の家に帰りたい。


この気持ちはあるのに何度頭の中を回転させてみても過去に関してはあの気持ち悪い感情しか思い出すことが出来なくてそれにまた吐き気がする。


(記憶はもしかすると自分の元いた場所に帰れば戻るのかもしれない。でも少なくともここは違う。)


私はここから出なければと思い大きな木に登る。


所々土で汚れていたり切れていたりするスカートのせいで登りずらいきもするが、一心不乱に登って行った。


大きな壁が5kmくらい遠くに見える。





『もしかして、あれが出口?』




案外簡単に見つかったその壁に私は不信感も少し抱きつつ喜びが混み上がってきていた。





しかしその喜びはすぐに打ち砕かれることになる。





私はただひたすらその壁の方向に向かって走り続けていた。





確かに壁は遠くに見えた。


けれど、それよりもこのモヤモヤが気持ち悪くてこの場を離れたいと思っていたから。


何時間も走り続け全身には痛みが、
脚には何度も転んだ時にできた傷と赤い液体。


あたりもその色に染まって日が暮れていく…


なのに、どれだけ進んでも木の上で見た壁は見つかることがなかった。




疲れがどっと出て膝から崩れ落ちる。


今まで感じたことがなかったであろうほどの凄まじい疲労感。


そんな中、頭の片隅で誰かが喋っている映像が流れ始めた。



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