この先に日常は待っているのか

樫谷の言葉で教室がどよめく。

「じゃあ、入って。」

樫谷が廊下に向かって呼びかけると、石高の制服を着た1人の少女が教室に入ってきた。


それはまるで、暗闇の薔薇とでも言い表せるだろう。

胸辺りまで長い黒髪と俯いた姿は、彼女自身が持つ不思議な暗さが滲み出ている。だが、その暗さとは裏腹に、目にかかる所で切り揃えられた前髪の下からは、綺麗な顔を覗かせていた。下手に手を出したら棘が刺さってしまいそう、そんな雰囲気だった。


「今日から皆の仲間になる黒崎 美和〈くろさき みわ〉さんです。黒崎さん、クラスの皆に自己紹介をお願いします。」

「黒崎 美和です。よろしくお願いします。」

俯いたまま自己紹介をする転校生に、若干の戸惑いを交えながら、クラスの皆は拍手を送る。

「席はあそこの空いている席に座ってください。馴染みやすいように教室の中央あたりにしておいたから。」

「はい。」

そう言って、樫谷は彩の前の席を指差す。

「黒崎さんから見て前も左も男子だから、後ろの席の小田切さん、色々分からないことは助けてあげてね。」

「…分かりました!」


「それでは、ーーーーー」


美和が席についた後は、樫谷が今後の日程などについて話を始めた。
彩の前に座る転校生・美和。艶のある長い黒髪の後ろ姿を見つめながら、彩はホームルームの後に挨拶をしてみようと考えていた。


これから、不思議な怪事件に巻き込まれるとも知らずに。

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