婚活を始めたら、龍を捕まえました【完】
母の車の鍵を持ち、軽自動車で家を出る。

近くのホームセンターで3本セットのカセットガスを手にレジに向かう。

その時、

「結乃」

と、不意に名前を呼ばれた。

振り返った先にいたのは、龍さん……ではなく……

「翔馬……」

ドッグフードを抱えた翔馬が、こちらを見ている。

やっぱり、似てる、龍さんに。

翔馬は、スタスタと歩み寄って言った。

「結乃、帰って来たのか?」

声まで似てる気がする。

「ううん。ちょっと帰省しただけ。明日の夜には、また帰るの」

話してると、なんだか懐かしい思いが蘇ってくる。

「そうか。俺、来月から東京の病院に2年間研修に行くんだ。結乃、向こうで会えないか?」

えっ……

翔馬は、この辺りで1番大きな病院の一人息子で、医学部に進学したのは知ってる。

ちゃんとお医者さんになったんだ。

でも、東京で翔馬に会ったりしたら、龍さんは絶対勘違いする。

「翔馬、あのね」

私は、断ろうとした。でも、その時、

「結乃、覚えてる、これ?」

翔馬が見せてくれたのは、車の鍵……に付いてるストラップ。

昔、私が修学旅行のお土産にあげたそれは、沖縄の海をイメージした青いビーズがぶら下がっている。

男子が持つには少し可愛すぎるそれを、翔馬は当時から恥ずかしげもなく携帯に付けて使ってくれていた。

「それ……」

私は、言葉を失った。

あれから何年経った?
10年以上経ってるよね?

なんで!?

「俺、結乃に謝りたかったんだ。俺が勝手だったと思う。ごめん」

そんなの、今さら謝ってもらっても……

「あれから、誰と付き合っても、やっぱり結乃が1番だと思えて仕方ないんだ。俺たち、やり直さないか?」

龍さんと微妙な時に、龍さんと同じ顔でそんなこと言わないでよ。




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