ブルー、ブルージーンズ
「別れたとして、どうするつもり? 住むとことか、いろいろ。あたし、いまのバイト代じゃ一人暮らしなんてとても無理だよ。だからといって実家に戻るなんて絶対やだし」

自分でもかなりの難癖をつけてるな、と思いながらあたしは言った。大輔は困ったように頭を掻いて、

「いや、それは、申し訳ないんだけど、おれもあんまり余裕はないしな……。つってもここでいっしょに暮らすわけにはいかないし」

その言葉に、あたしはぴんときた。

「なんで?」

「は?」

「なんでいっしょに暮らしちゃいけないの?」

「はあ? それはだって、変じゃん」

「なんで? なにが変なの? すっごく合理的だと思うけど? あたしもあんたも無理してここ出ていくこともないし、余計なお金もかかんないし、どうせ生活はばらばらなんだし、なんにも問題なくない?」

ふいに飛び出してきたアイディアだったけれど、ものすごい名案のように思えた。

すっごくいい。このままここでいっしょに暮らしていたら、そのうち大輔も情にほだされて、気づいたらまたもとどおりなんてことになってるかもしれないし。なにより、同棲を解消するにあたって持ち上がるさまざまな問題が一挙にクリアになる。

「いや、いくらなんでもそれはちょっと……」

けれど大輔は決して首を縦にふろうとしなかった。

「だったらいいよ。別れないから」

あたしはむきになって、大輔を脅しにかかった。もうむちゃくちゃだ。

「そんなんありかよ……」

途方に暮れたように大輔が天をあおぐ。

「それだとなにも変わらないんじゃない?」

「いいんじゃない、べつに。だってあたしはいまのままでいいんだもん。それは大輔だけの問題でしょう?」

「…………」

かたくななあたしの態度に諦めたようにため息をついて、大輔は立ち上がった。すこし考えさせて、とかすれた声でつぶやいて、自分の部屋に戻っていった。
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