One s death -the last sword-
聞きようによっては恐ろしい話だが、それ以前に何度見たか知れない『ある風景』を見た記憶がない事が、俺にとっては1番恐ろしい。心の底で、強く欲しているのだが。
「…すみません。寒いですか?」
隊服を着直す俺を見たレベッカは、気をつかって暖炉に火を灯した。数本の薪を投げ入れると、火の粉が散る音が微かに響く。狭い室内が、暖かい光に包まれた。
「あぁ、ありがとう。そろそろ戻る?部屋に…」
「…俺はこれから武器・刀の整備をしに東舘に行きますが。でも、もう少し休んでいきましょう。レディック様の部屋まで距離がありますし、廊下はひどく寒い。風邪をひかれて、これ以上学習が進まないと困りますから」
その輝きそうな低い声でさりげなく皮肉を言うと、レベッカは寛容な微笑みをうかべて俺のノートを冷たい床から拾い上げた。
俺のノートは、常に床に散乱している。おまけにノートは無駄に破れており、錯乱したように解読不可能な文字が書き記されている。授業中、俺はじっと椅子に座っている事に耐えられなくなり、黒板に書かれた文字を目にも止まらぬ速さで写し出して、その時の筆圧でノートが破れるのだ。
< 11 / 201 >

この作品をシェア

pagetop