One s death -the last sword-
「…レディック様は、どれがお好きですか?」
ふっと口からもれた言葉に、思わず口をおさえた。
そんな様子を見た王太子殿下は、幼い笑みを口元にたたえた。
「俺は、これが好き。この、赤い薔薇」
王子が指差したのは、何の特徴もない普通の薔薇だった。
これが元の姿のはずなのに、種類が増えていくにつれて存在が薄くなった赤い薔薇。
それは少し、騎士の人生に似ているような気がする。
この、何にでも深く考えてしまう癖は父親譲りなんだろうか。
剣技がうまくなるにつれて、自分の存在を見失ってしまう事がある。
あるひとつの事に向かって頑張っていたはずなのに、いつの間にか見失っていた――。
この城で、そういう騎士を何人も見てきたのだ。
「…レベッカは?」
「俺は」
向けられた視線に、戸惑う。
真っ直ぐな汚れを知らない瞳は、俺の全てを見透かされてしまいそうだった。
「俺も、その赤い薔薇です」
指差したのは、王子が差した薔薇の隣の薔薇。
寄り添うように揺れている赤い薔薇は、互いを支えあっていた。
透き通った水色の瞳が、絡まりあう。
小さな王子は、それでもそこに存在した。
「レディック王太子殿下」
呟くと、小さな王子に威圧感を覚える。
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