【短】何光年先の原石を
「香織ー?今日、伯父さん来るって言ってあったでしょう?部屋片付けて!」
朝、起きぬけに母にそう言われ香織は不機嫌に反発した。
そんな事を聞いた覚えはない。
渋々ベッドから這い出して見回した部屋は原稿だらけ。
どうしようもない現実にため息をついた。
拾い上げた原稿はバツ印だらけで、辛うじて書き上げたものも何となく破いてしまいたい衝動に駆られる。
「やっぱり才能なかったのかな。」
ため息と共に漏れる呟きは誰に届くこともなく消えていった。
机の上にある一冊の本。
香織のデビュー作。
作家になると決めて出版社に何度も何度も応募してやっと叶った作家の夢。
そしてそのデビュー作は幸運にも人気作品と言われるようになっていた。
しかし、その裏では新しい作品を出しても著しい結果がなかなか出ない。
その事に香織は焦りを感じていた。
ひとまず考えても仕方がない、と無理やり思考を片付けに変換する。
放り出した原稿は部屋の隅のゴミ箱へと消えていった。