【短】何光年先の原石を
伯父が訪ねてきたのは正午を少し過ぎた頃だった。
一緒に食卓を囲みながら他愛もない話をする。
「そうだ、夕方からご近所の集まりで少し出かけるわ。」
2人で留守番よろしくね、と笑う母はその後も伯父と談笑を続けた。
香織は隙を見つけて部屋に引きこもる。
書きかけの原稿に手をつけるがやっぱり思うようには進まなかった。
書いては捨てて書いては止まる。
どれも売れるとは思えなかった。
どれだけそうしていたのだろう。
部屋のノックで初めて窓の外が暗くなっていることに気付いた。
入るよ、という声とともに伯父は顔を覗かせてくる。
そのまま興味深そうに視線を彷徨わせながら部屋に入ってきた。
母はもう出かけたのだろう。
「ほう、これが作家さんの部屋か。」
大して面白い部屋でもないだろうに新鮮な表情をする伯父に香織はクスリと笑った。
「デビュー作、読んだぞ。面白かった。」
「ありがとう。」
「その次も、その次の本も読んだけど香織は凄いなぁ。」
本当に心底楽しそうにあれこれと感想を述べる伯父に驚いた。