【短】何光年先の原石を

「え、読んだの?」

当たり前だろう、と屈託なく笑う顔を見て胸がキュッとなった。
まさか全部読んでくれている人がいると思わなかったからだ。

香織の本はどこの書店に行っても他の本に紛れてしまうようなものが多い。
それを良いと言ってくれる人が目の前に現れた。
香織はどうしても心に引っかかることを聞かずにはいられなかった。

「でも、どれもデビュー作には及ばないでしょ?」

指先が震えていた。
自分の本に対する生の声を聞くことが怖いと思った。

ぎこちない笑みを浮かべる香織に伯父は不思議そうな顔をする。

「全く違う話を僕は比べられないよ。」

そう言うと、それぞれの良さを力説してくれた。
存外しっかりと読み込んで香織の意図を理解してくれていることに驚く。


「ん?これは?」

伯父の視線が部屋の隅の原稿に向く。

「あぁ、それはボツ原稿。」

答えるや否や伯父はぺらぺらと読み始めた。
真剣な表情に思わず止めるのを躊躇う。
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