【短】何光年先の原石を
「ほら、もう直ぐ着くぞ。」
そう言って立ち止まった伯父の背中に香織は顔面からぶつかった。
「痛っ〜。」
鼻を押さえながらゆっくりと目を開ければ視界いっぱいに飛び込んできたのは宇宙だった。
高台への道が開けて満点の星空が広がっている。
思わずほぅと溜め息が漏れた。
「綺麗…。」
ポツリと呟いた言葉に伯父は満足そうに笑う。
まるで自分のものかのように胸を張る姿に香織もつられて笑った。
「香織が今見ているその星は、あの星の今の輝きだと思うかい?」
香織は質問の意図がわからなかった。
肯定でもなく否定でもない、香織は少し首を傾げる。
例えばね、と伯父が指差す方向には一際明るい星があった。
「あの星はフォーマルハウトって言うんだ。」
フォーマルハウト。
秋の星の中では唯一の1等星だという。
「今僕たちが見ているあの星は、実は25光年も前の星なんだ。」
「25光年?」
伯父の話では、光には音と同じように進む速度というものがあるらしい。
その速さは何と1秒間で地球を7周半出来るという。
そんな光が1年間で進める距離のことを1光年と数えるから25光年は実質25年前の光を見ているということだ。
香織は突然のスケールの大きさに目眩がした。