勇者四男冒険記
「ヌル王様、第四王子フリッツ様をお連れしました!」
体からプスプスと黒い煙をたてながら、兵士がビシリと敬礼した。後ろに並ぶフリッツも同じように服や髪が焼け焦げており、ギルマンが服の煤を拭いたりふわふわの金髪をなでつけたりしてなんとかごまかそうとしている。王の間の前を守る二人の兵士は何があったのか察したようで、少し苦笑いしながら三人を奥に通した。
王の間には壁を覆うほどの数の兵士たちが並んでいたが、フリッツが入ってくるのに合わせて一斉に敬礼のポーズをした。その様子は来訪者であるフリッツに対してというより、部屋の最奥に鎮座している王に対しての敬礼のように見えた。
ヌル王は豊かな白いひげを蓄えた老人であるにも関わらずその眼光は鋭く、両脇に控えた三人の青年とともにフリッツたちを値踏みしているようだった。ギルマンは王のもとにたどり着くまで何十キロもあるような気がして、思わず生唾を飲む。そんな彼らの心も露知らず、フリッツはすたすたと王のもとへ歩いていき、ふんぞり返るように仁王立ちした。
「何か用でしょうか、父上」
「何か用とはご挨拶だな、弟」
王が口を開くより先に、青年のうちの一人がとげとげしい言葉を投げかけた。短い黒髪に鋭い目つき。国王三男のドミニクだ。
「おめえにはやっぱり父上に対する敬意が足りねえな。おめえが四男でほんとによかったぜ」
「ドミニク、実の弟相手でも口にしていいことと悪いことがあるよ。僕らは兄弟、仲良くしないと」
次男のテオがそう言ってやんわりとたしなめる。派手な赤毛に似合わず、その顔はぼんやりとまどろんでいるようだ。
「テオの言うことにも一理ある。しかしドミニクの意見も正しい。フリッツ、お前は王の御前にいるということを自覚しているのか?急ぎ来るよう伝えたとはいえ、その姿は下水道の泥をまとっているに等しいぞ」
三人の中で最も立派な服装に身を包んだ男が、豊かな茶色い髪をたなびかせながら半歩前に出た。体のいたるところに金色の勲章や大きな宝飾品を何十個も付けたその姿はかえって悪趣味に見える。フリッツは派手すぎる長兄の姿に少し眉を細めながら、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「さすがアベル兄上、兄弟の失態は見逃さないというわけですか。しかしその前に、この国の第四王子に爆破魔法を食らわせた世話係の狼藉を責めるべきでは?」
「ふ、フリッツ様!」
ギルマンが止めるのも構わず、フリッツはふんぞり返ったままアベルをにらみ続けた。アベルは大げさにため息をついてみせると、哀れなものを見るような目でフリッツを見下した。
「お前が王子としての自覚をもった行動をしていれば、ギルマンも狼藉を働かずに済む。お前に限っては自業自得だ。ギルマン、お前の行為は不問に処す」
「あ……ありがとうございます」
「借りてきた猫みたいだな。いつもこうだといいのに」
フリッツはクスクスと笑い、王に向き直った。
「ところで父上、呼びに来た兵士の様子だと急用のようでしたが?」
「……」
王は何も言わず、げほんげほんと二回ほどせき込む。するとそれが合図だったかのように、王の近くにいた兵士が進み出てフリッツに恭しく剣を捧げた。
「……父上、何ですか?これ」
「リーベアレス王国第四王子フリッツ」
フリッツに問いかけられた王に代わり、アベルが応えた。
「国王の名のもとに、修業の旅に出ることを命ずる」