勇者四男冒険記
「……旅?」
フリッツはハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。アベルはすっと後ろに下がると、説明してやれ、とテオに話を促す。テオはフリッツの前にしゃがみ込んで目線を合わせ、にこにこしながら話しかけた。
「フリッツ。父上と僕らで話し合ったんだけど、君はしょっちゅう授業をさぼって外に遊びに出ているらしいね」
「ま、まあ多少は……」
「ギルマンからの報告によると、二日に一度は絶対に脱走しているらしいね。脱走中何をしていたか知らないけれど、そのことを受けて僕らは判断したんだ。君には座学ではなく、実践が必要なんだって」
「それで、旅を?」
「そう。もちろん各町におふれを出して、君がスムーズに冒険できるようある程度の手配はするよ。君が立派な魔法使いになれるよう、優秀な先生のもとをめぐって……」
「魔法使い?」
フリッツが素っ頓狂な声をあげる。
「俺、魔法使いになるの?」
そう問われ、テオもアベルも目を皿のように丸くする。数秒の沈黙のあと、一人の男の高笑いが響いた。
「やっぱりな!だから言ったんだ、こいつは何にもわかってねえ馬鹿だって!」
「ド、ドミニク……」
テオが止めようとするのも構わず、ドミニクは二人の間に割り込んだ。
「フリッツ、俺たちがなんで四人兄弟か考えたことねえのか?」
「え、な、なんでって、そう生まれたからじゃ……」
「バーカ。父上が魔王グラウザムを討伐したときの逸話、おめえも知ってるだろ。勇者、魔法使い、聖職者、戦士の四人によって平和が取り戻されたんだ。そして俺たちも四人。神のお告げで作られた精鋭部隊を継承するのにちょうどいいだろうがよ」
ドミニクはニヤニヤしながら王座のうしろの壁を指さす。そこには四つの巨大なステンドグラスがあり、それぞれが四人の英雄の勇姿を映し出していた。
「……でも、なんで魔法使いに?」
「んなもん、ちょっと考えてみればわかる事だろ。アベルはカリスマ性があって勇者向きだし、テオは昔から平和主義だから聖職者にぴったり。そして俺は剣・戦術・格闘技、すべてにおいて向かうところ敵なし!戦士こそ俺の天職!だから俺たちに足りねえのは、あとは魔法使いだけなんだよ」
「……」
「ま、まあそういうわけなんだ。幸い君はまだなりたいものも決まっていないみたいだし、得手不得手を鑑みても今から磨けば……」
そう言いながらテオはフリッツに剣を握らせようとする。フリッツはじっと自身の足元を見ていたが、突然剣の柄をギュッと握りしめ、テオに向かって振り下ろした。
「フ、フリッツ!?」
「てめえ、実の兄に向って……!」
「うるさい!」
部屋中にびりびりと響くほどの大声に、その場の全員がびくりと肩を震わせる。フリッツはギリギリと音を立てながらアベルたちをにらみつけ、ステンドグラスに向かって剣を投げつけた。勢いよくぶつかったそれは魔法使いの足元をぶち破り、城の外へとからんからんと音を立てながら落ちて行く。
フリッツはそのままくるりと踵を返し、すたすたと王の間を出て行った。ギルマンは慌てて王たちに会釈をすると、彼を追って走りだした。