翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか
花鈴の目から止めどなく涙があふれ、圭介の胸は苦しくなる。しかし、蘭が表情を変えることは一切なく、黙ってティッシュを差し出すだけだった。

「花鈴さん、解剖を依頼するということは千鶴さんのご遺族の方にお話してあるんですか?」

花鈴が泣き止むのを待って蘭は訊ねる。遺族でもない人間が許可なしに解剖を依頼することは許されない。

「大丈夫です。千鶴のお母さんを説得しました」

花鈴はそう言った後、持っていた通学かばんの中からアンティークでおしゃれな封筒を取り出す。その中から同じくおしゃれな便箋が出てきた。一通の手紙だ。

「これが千鶴から最後にもらった手紙です。一生の宝物なんです」

花鈴がそう言い、蘭と圭介に手紙を見せる。そこには綺麗な字で想いが綴られていた。


「花鈴、ハッピーバースデー!
 私、あなたの誕生日を祝えて嬉しい。
 幸運が花鈴に訪れますように。
 海にまた一緒に行きたいな。
 スミレの花がお互い好きで仲良くなったよね?懐かしい!
 夢中になっちゃうんだ。花鈴と話したりすると。それだけ特別なんだと思う。
 あなたに会えて嬉しい。
 私と出会ってくれてありがとう。
 PS.英語圏に一緒に旅行に行こうね」
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