翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか
「英語圏に旅行?普通、アメリカとかイギリスとか国名を書きますよね?」

手紙を読み終えた後、圭介が呟く。蘭はただ黙って手紙を読んでいた。手紙はPSの部分以外はごく普通の文章だと思う。

「警察は事件性はないってまともに調べてはくれなくて……。もうここしか頼れる場所はないんです!」

花鈴が必死な顔で言う。日本の警察は事件性がないと解剖を依頼したりしない。適当な死因をつけられ、ご遺体は遺族に返される。

「わかりました。解剖をさせていただきます」

蘭がそう言い、花鈴の顔は安心したようなものに変わる。圭介は「どうして解剖を依頼したいって思ったんですか?」と訊ねた。ここまでして高校生が死因を知りたがることはないだろう。

「学校で元気に笑って、私を祝ってくれた大切な人が次の日に亡くなっていた。それが信じられなくて、だからこそ死因を調べてもらいたいって思ったんです。本当に、大切な人だから……」

花鈴の目からまた涙がこぼれる。蘭はその涙を拭い、「任せてください」と無表情のまま言った。
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