翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか
蘭はそう言い、圭介の呼吸が落ち着いたのを見てまた歩き出す。コツコツと圭介の足音だけが道に響いた。

「神楽さん、ヒールのついたパンプスなのに足音が全然しないんですね。どんな場所でも足音がしないんですごいです」

圭介の言葉に蘭は「ありがとうございます」とチラリと圭介を見て言う。褒められているが蘭の中に嬉しさはない。少し苦しくなり、蘭はブローチを握り締めた。

「アメリカでどんな暮らしをしてたんですか?俺、海外になんて行ったことないんで気になってたんですよ」

圭介の問いに蘭の顔に一瞬悲しみが浮かぶ。蘭にとってあの場所は、幸せと悲しみが入り混じっている場所だ。

「神楽さん?」

圭介に見つめられ、蘭は「何でもありません。すみません」と謝る。そして花鈴の家に向かって足を早めた。

「すごい豪邸……」

目の前に現れた花鈴の家を圭介はポカンとした顔で見つめている。それに対し、蘭は何も感じていなかった。
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