翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか
『蘭、絶対にこの手を離さないと誓う。蘭が幸せになるその時まで、僕は君を見守り続けるから』

懐かしい顔が蘭の頭の中に浮かぶ。懐かしいその人と圭介の手の感触は全然違う。それでも温もりがあるのは同じだ。

蘭の手は自然にエメラルドのブローチに伸びていた。

花鈴の家から十五分ほど歩き、通りに出るとすぐにその食堂は見つかった。おいしいイタリアンが売りのその食堂はそこそこ賑わいがある。

「いらっしゃいませ!」

食堂に蘭と圭介が入ると、白髪混じりの髪をした女性がニコニコしながら挨拶をしてくれた。他にホールで動き回っているのは若い人ばかりなので、千鶴の母親はこの人で間違いないだろう。

「南千鶴さんのお母様ですか?」

蘭が訊ねると女性は驚いた顔をする。そして「千鶴のお友達?」と訊ねた。蘭は名刺を出し、お辞儀をする。

「お初にお目にかかります。世界法医学研究所の監察医、神楽蘭です。今回は千鶴さんの死因を調べさせていただいています」
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