翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか

蘭がそう言うと、千鶴の母親は泣き出してしまいそうな顔を見せて蘭の手を掴んだ。

「こっちで話しましょう」

お客さんで賑わうホールを通り、従業員以外立ち入り禁止のドアを千鶴の母親は開ける。そして蘭と圭介をスタッフルームに案内した。

「千鶴さんの死因は急性硬膜下血腫でした。心当たりはありますか？」

圭介が訊ねるが、千鶴の母親は「わからないわ」と首を横に振る。一体どこで千鶴は頭部外傷を負ったんだろう、そう圭介が考えていると蘭が口を開いた。

「千鶴さんはコスモスの花を持って亡くなっていたそうですが、何故花を手にしていたんでしょうか？」

「きっと、私への誕生日プレゼントとして買ってきてくれたんです。あの日は私の誕生日でしたから……」

千鶴の母親はそう言い、スマホを取り出す。そして千鶴の写真を蘭と圭介に見せてくれた。どの写真にも千鶴は笑顔で写っている。

「私はコスモスの花が一番好きなんです。だから、千鶴は毎年私の誕生日にはコスモスをプレゼントしてくれるんです。幼い頃に離婚して、千鶴にはたくさん苦しい思いをさせてきたのに、本当に優しい子で……」