翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか

千鶴の母親が涙を拭い、圭介が「素敵な娘さんですね」と優しく声をかける。その時、スマホで撮られた写真を見ていた蘭が「この写真は……」と呟いた。それは大きめのキャリーケースを手にピースサインをしている千鶴の写真だ。

「それは去年、千鶴が夏休みにアメリカに留学する出発日に撮ったものです。あの子はずっと留学をするのが夢で、将来は英語を活かした仕事がしたいって言ってて……」

「英語……」

蘭はそう呟き、目を閉じる。何かを考え込んでいるのだ。その頭の中で何が思われているのか、見ることは当然できない。しかし、蘭の頭の中でパズルのピースが埋まりつつある。

「深森さん、碧子さんとゼルダに電話をしてきます。もうすぐで千鶴さんの死の真相が明らかになりそうです」

「えっ！？わ、わかりました……」

蘭は驚く圭介にそう言い、スタッフルームを出て碧子とゼルダに電話をかけ始める。千鶴の死亡推定時刻は午後六時頃。昼間は学校に行っているため、急性硬膜下血腫を引き起こす頭部外傷を負ったのは放課後の可能性が高い。

蘭は碧子たちにあることを頼み、電話を切った。