翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか
「あの時のことを夢に見てしまうのは仕方ないわ。それに向き合おうとするあなたは立派よ」

朝ご飯はもうできてるから、そう言い碧子は部屋から出て行く。部屋の扉がゆっくりと閉められ、蘭は着替えようとベッドから出た。

蘭は十八歳の女性だ。普通の女の子ならば、大学や専門学校に行って未来に夢を抱いたり、働き始めて新しい環境に楽しさを感じる時期だろう。しかし、蘭は普通の女の子とは違う生活なのだ。

白いシャツを着て緑のスカートを履き、蘭はドレッサーの前に立つ。鏡には美しい長めの黒髪をした人形のように整った顔が映っている。多くの人がこの美しさに見惚れるのだろう。パッと見ただけでは、彼女の職業など誰も想像することはできない。

鏡の前で蘭は長めの髪を一つに結ぶ。そして、ドレッサーの上に置かれた小さな紺色の箱に手を伸ばした。

「星夜(せいや)さん……」

そう呟く蘭の目には深い悲しみがある。ゆっくりと蘭が箱を開けると美しく煌めくエメラルドのブローチがあった。蘭はブローチを自身の胸元につけ、もう一度鏡を見る。
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