翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか
「研修、もっと伸ばしてもらおう。もっと法医学研究所のことを知りたいし」

そう圭介は呟き、蘭の顔を思い浮かべる。無表情で玲瓏な声の彼女の初めて見た微笑みは、どんなドラマのワンシーンよりも感動的で美しい。胸がまた高鳴っていく。

「彼女はどうしてあんな表情なんだろう……」

圭介がそう言った刹那、圭介の真横に車が止まる。花鈴の豪邸で見たような高級外車だ。圭介が驚いて固まっていると、車の中からメガネをかけた五十代ほどの男性が姿を見せた。

「君は、世界法医学研究所で研修をしているな?」

男性の言葉に「何故それを?」と圭介は驚きながら訊ねる。目の前にいる男性とは初対面だ。

「単刀直入に言う。死にたくなければさっさと研修を終えることだ」

「どういうことですか?そんなこと、あなたに言われる筋合いはありませんよ」

圭介が男性を睨むと、男性は冷たい目を向ける。

「監察医の神楽蘭は人殺しだ」

「えっ?」

呆然とする圭介を残し、男性は再び車の中に乗り込んで去っていく。圭介は突然聞かされた言葉にショックから動くことができなかった。
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