翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか
「……」

蘭は無言で鏡を見つめる。相変わらず人形のような顔がそこに映っていた。しかし鏡の中には、人体模型や医学書など美しい女性の部屋には似つかわしくない部屋が蘭と共に映し出されている。

彼女は、十八歳という若さで監察医として働いている。職場はただの法医学研究所ではない。世界から監察医が集まった世界法医学研究所だ。



蘭が身支度を済ませて一階のリビングに降りると、碧子はご飯をよそっているところだった。蘭は「手伝います」と言い味噌汁をよそう。

テーブルの上には、ご飯に味噌汁、焼き鮭に漬け物といった和食が並べられた。蘭と碧子は向かい合って座る。

「いただきます」

二人で手を合わせ、食べ始める。しかし、同じ時間に食べ始めたというのに碧子が半分食べ終える頃には蘭はすでに食べ終わっていた。

「ごちそうさまでした」

そう言い立ち上がって食器をシンクに持っていく蘭に、碧子は「相変わらず食べるのが早いわね」と苦笑する。蘭は「申し訳ありません」と謝った。
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