翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか
「今日は私は裁判があるから夕方までそっちに行けないけど、大丈夫?」

皿洗いを済ませ、かばんを手に家を出ようとした蘭にスーツを着た碧子が訊ねる。その顔はとても心配げた。蘭は「問題ありません」と答える。

「碧子先生は、裁判での証言をお願いします」

そう話す蘭の顔には微笑みすらない。碧子は「そうね。そっちも解剖、お願いするわ」と切なげに笑った。

碧子はタクシーで裁判所まで向かい、蘭は車で世界法医学研究所に向かう。最近車を新しくしたのだ。碧子に勧められて買ったキャンバスのエンジンをかけ、車を走らせる。世界法医学研究所までは車で二十分ほどだ。

「……今日も、法医学の希望に」

信号が赤になった時、蘭はブローチをギュッと握り締めて呟く。その目には、やはり悲しみが隠されていた。



東京ドーム二個分ほどの巨大な世界法医学研究所に着き、蘭は車から降りる。すると蘭のキャンバスの隣にレクサスが止まる。そして車から転がり落ちる勢いで女性が現れた。小柄な蘭より十五センチは背が高く、金髪のベリーショートに青い目をしている。
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