翠玉の監察医 誰を愛したっていいじゃないか
蘭は無表情のまま歩き出す。圭介がついて来ているのが足音でわかった。蘭は警戒を緩めることなく法医学研究所の中に入る。

「アーサー、マルティン、おはようございます」

蘭が働いている部屋に入ると、アメリカ人監察医のアーサー・スチュアートとスウェーデン人監察医のマルティン・スカルスガルドがすでに今日解剖する予定の遺体についての資料を読んでいた。

「この人は?」

アーサーが訊ね、圭介が「今日からお世話になります」と自己紹介をする。するとマルティンが「なら今日は歓迎会でもしようか」微笑んだ。

「賛成!いいバー見つけたんだ」

「えっ!?あの、そこまでしていただかなくても……」

喜ぶアーサーに対して圭介が慌てて言い始める。それをチラリと見てから蘭は資料に目を通し始めた。その後ろではまだ歓迎会についての話がされている。

「ちょっと待った!!蘭は十八歳なんだからバーになんていけないわ!!」

ゼルダがそう言った刹那、圭介が「は?」と呟く。そして資料を読み続ける蘭に「どういうことなんですか!?」と驚きながら質問する。蘭は資料から顔を上げ、戸惑った顔の圭介を見上げる。驚く圭介に対し、蘭は相変わらず無表情だ。
< 9 / 36 >

この作品をシェア

pagetop