打ち上げ花火とミルクティー
「ただいま・・・」


制服に身を包んだ水野璃梨は、誰にも聞こえないほどの小さな声でそう言いながら靴を脱
いだ。

家に上がり、まずは廊下の突き当たりのリビングに顔を出す。

5LDKの持ち家。


璃梨の父親は特に苦労するわけでもなく、ローンを返済している。

この家がいくらしたのかは定かではないが、あと数年で完済出来るそうだ。


璃梨の家では、家に帰ってすぐに黙って二階の自室に上がる事を禁止されている。

濃い茶色の木枠にすりガラスがはめ込まれたリビングの扉をそっと開けた。


「ただいま」


璃梨はもう一度、今度はそこにいるはずの母親に聞こえるくらいの声でそう言った。

カウンター式のシステムキッチンから小花柄のエプロンを付けた母親が顔を出した。

今日はどこかへ出かけていたのか、セミロングの髪をフワリと巻いていた。

若づくり。

璃梨はそう思っているが、周りの人たちは、璃梨の母親が本当に若いと思っている。
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