黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
 だから恋人はいないんだと思い込んでいた。
 だけど、一度も本人に確認したことはなかった。
 
 黙り込んでいると、恵は不思議そうにもう一度私の名前を呼ぶ。

「美緒?」

 その声が届いたのか、伊尾さんの視線がこちらに向いた。


 うわ、気付かれた。
 
 目が合って跳び上がる。
 ひとりあせる私に、伊尾さんは小さく笑ってから近づいてきた。

「佐原、偶然だな」

 名前を呼ばれ、慌てながら伊尾さんを見上げる。

「あ、あの、伊尾さんは、おでかけですか?」
「あぁ。ちょっと用があって」

 伊尾さんの答えに、「そうなんですか」と動揺を隠してうなずく。
 
 花束なんて持って、もしかしてデートですか? 
 そう冗談まじりに聞けたらいいのに。
 
 不器用な私は、疑問を飲み込んで黙り込むしかできなかった。

「なになに。もしかして、美緒の先輩?」
 
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