黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
 その瞬間、伊尾さんの表情が変わる。

「了解しました」

 伊尾さんは短く答えると、軽く顎を上げさりげなくあたりをうかがう。
 
 薄暗いクラブの中を見通す真剣な視線。
 彼の纏う雰囲気が一気にするどくなった。
 
 その姿を見て緊張が高まり、背筋が伸びる。
 
 仲間たちからの情報通り、ターゲットの男が入り口から入ってくる。
 そして三階にあるVIPルームへと上がっていった。
 
 一足先に入店した取引相手が、その部屋で男を待っているのはすでに確認済みだ。
 間違いなく、あの場所でクスリの売買が行われる。

「行くぞ」

 伊尾さんが耳元で低く告げた。
 その言葉に、私は気を引き締めてうなずく。

 騒がしいフロアを抜け、細い階段を上る。
 
 先を歩く伊尾さんが、男が入っていったVIPルームのドアを、勢いよく開けた。

「動くな」

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