黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
 そう思っていたはずなのに、自分で思っていたより何倍も、私は欲張りでわがままだ。
 
 伊尾さんに優しい笑顔を向けられるあの人が、うらやましくてしかたない。
 
 心がひりひりと痛むような嫉妬を、生まれて初めて体験して、どうしていいのかわからなくなった。
 
 こみあげる感情が抑えきれなくて、瞳がうるんでいく。

 涙をこらえながら歩いていると、後ろから私を追い越そうとした人と肩がぶつかってしまった。

「す、すみません……」

 慌てて顔を上げて謝る。するとそこには細身の男の人がいた。

「佐原さん。偶然だね」

 そう言って笑うのは、先週会ったばかりの人物。

「呉林くん……?」

 突然現れた彼に、とまどいながら目をまたたかせる。
 その拍子に、こらえていた涙がぽろりと一粒こぼれた。

「佐原さん。もしかして、泣いていたの? なにかあった?」
「いや、ええと」

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