黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
 私が勇気を振り絞って言いつのると、伊尾さんは手でこめかみを押さえる。

「お前なぁ……」というつぶやきとともに大きくため息をついた。

「俺が必死に理性を振り絞って、おとなしく帰ろうとしてるのに……」

 伊尾さんは、そう言いながら邪魔くさそうに髪をかきあげこちらに視線を向ける。

「理性?」

 それまで冷静だった伊尾さんの表情がかわる。
 指の間からこちらをにらむその黒い瞳が、熱をおびていくのがわかった。

 見つめられるだけでぞくっと体が震えるような色気。
 視線が絡むと、私の体はかなしばりにあったように動けなくなる。

 めったに見ることのない、伊尾さんの、男の顔。

 伊尾さんは玄関のドアノブから手を離すと、こちらに足を踏み出した。
 
 思わず私は後ずさる。
 狭い玄関で、私はあっという間に追い詰められる。

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