黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
 てっきり取締官失格だと怒られるかと思ったのに、伊尾さんはなんでもないことのようにそう言った。

 その表情は、優しかった。

「もしかして、伊尾さんにも怖いものがあるんですか?」

 私の質問に、伊尾さんは小さく笑い答える。

「……あるよ」

 そのまま黙り込み遠くを眺める彼の目は、美しい夜景ではなく、なにかちがうものを見ているようだった。

 その横顔がどこか寂し気で、目が離せなくなる。
 
 見ているだけで、胸を打つ鼓動が速くなる。
 

 どうしよう。
 やっぱり、伊尾さんが好きだ。
 こうやってそばにいるだけで、好きで好きで、泣きたくなる。

 私が感情の高ぶりをおさえるためにぐっと唇をかみしめていると、ビル風に体を押された。

 突然の突風にバランスを崩し、体が勝手に前のめりになる。

 すると、透明な柵の向こうに足もとに広がる夜景が見えて、血の気が引き体が震えた。

< 72 / 219 >

この作品をシェア

pagetop