黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
 うるんだ瞳で伊尾さんを見上げると、彼はこちらを見下ろしていた。

「大丈夫か?」
「……はい」

 答えながら、ぼんやり考える。
 
 このたくましい腕に、きつく抱きしめられていたんだ。
 そして、私も伊尾さんに思い切り抱き着いていた。

 さっきまでの状況を自覚して、改めて恥ずかしさが込み上げてくる。

「す、すみません。動揺してしまって……っ」

 顔から火が噴きそうなほど頬が熱くなる。

 私が顔をそらしながらあやまると、伊尾さんがぽんと頭を叩いた。

「気にするな」

 そう言ってこちらを見下ろす伊尾さんは、もういつもどおりの表情だった。

 私はこんなに取り乱しているっていうのに、彼には動揺の影もない。

 人生の経験値の差を思い知らされて、少しくやしくなる。

 そのとき、耳につけたイヤーモニターから声が聞こえた。

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