黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
『伊尾、佐原。中の様子はどうだ。こっちはずっと外で張っているが、クスリの売人がやってくる気配はない』

 外で張り込みをしている仲間からの連絡に、伊尾さんが短く答える。

「こちらも不審な動きはありません」
『そうか。じゃあこれ以上待っても無駄だろうから、今日のところは撤収するぞ』
「了解しました」

 伊尾さんがうなずき、こちらに視線を向けた。

「佐原、帰るか」
 
 その言葉に、「そうですね」とうなずく。

「せっかく同窓会だったのに、空振りで残念だったな」

 歩きながら話しかけられ、私は苦笑して首を横に振った。

「いえ。同窓会は別に、行きたいわけじゃなかったので」

 伊尾さんに抱きしめられた衝撃が強くて、同窓会なんてすっかり忘れていた。
 
 腕や肩には伊尾さんの体温や感触が、まだはっきりと残っていた。
 

< 81 / 219 >

この作品をシェア

pagetop