黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
 ふたりの間にわずかな緊張が走った気がした。

「呉林くん?」

 その不穏な空気を不思議に思って私が名前を呼ぶと、彼はすぐに柔らかい表情を浮かべた。

「あ、初対面の人をこうやってまじまじと見るのは失礼ですよね」

 呉林くんは、そう言いながら頭を下げる。

「自分はなかなか筋肉がつかない体質なので、うらやましくて。すみません」
「いえ、気にしないでください」

 謝る呉林くんに、伊尾さんは静かに首を横にふる。

「じゃあ、美緒そろそろ行こうか」

 伊尾さんは呉林くんに会釈してから、私の腰を抱いて歩き出した。


 そのまま店を出て、タクシーを捕まえる。

 車の後部座席に並んで乗り込むと、伊尾さんが大きなため息をついた。

「佐原」

 名前を呼ばれ、「はい」と返事をする。

 伊尾さんの方を見ると、ものすごく不機嫌そうな横顔があった。

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