黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
 つぶやきながら思い出すのは、クラブで伊尾さんに抱きしめられたときの記憶だ。
 
 私を抱きしめる伊尾さんの腕の感触。
 触れた場所から伝わる体温や、鼓動、呼吸するたびに動くたくましい胸。

 あんなドキドキを知ってしまったら、もうほかの男の人を好きになれるとは思えない。

 私はこの先もずっと伊尾さんの隣で働けられたら、それだけで十分幸せな気がする。

「あんたねぇ。叶わぬ恋にしがみつき続けるなんて、時間の無駄だよ?」
「……それでも、好きなんだもん」

 私がつぶやくと、恵は大きなため息をついた。

「ま、美緒が頑固で一度決めたらなかなか考えを曲げないのは、昔から知ってたけどね」

 どうやら恵は、これ以上の説得は無駄だとあきらめたらしい。

「そうだ、恵。同窓会はどうだった?」

 私は明るい声で話題を変える。
 すると恵は椅子の背もたれに体をあずけ、首を横に振った。

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