冷酷御曹司と仮初の花嫁
 カウンターは磨かれたウォールナット材で出来ているし、グラスはバカラ。

 使われるお皿もコーヒーカップも有名ブランドの物が使われている。ナプキンなどの小物まで有名なデパートで購入するという念の入り様なので、『誰でも来店することは出来るけど、お客様選ぶ店』だった。

 消えない灯りを窓越しに見つめながら、時計を見るとそろそろ21時を過ぎる頃になっていた。この店の忙しい時間はこれからだった。店の掃除と開店準備が終わると、私は軽食の仕込みをすることになっていた。

 サンドイッチとコーヒーで3000円という値段が一番手頃で、一番売れているメニューだった。注文が入るとすぐにサンドイッチにすることが出来るように茹で卵を作ったり、レタスをちぎったりと細々としたフィリングを作る。卵にハムにキュウリ、それとツナ。具材は簡単でどこでもあるようなものだけど、これが店のテーブルに並べられると高級なものになってしまう。

 それでも用意したものは残ることはなかった。

 主なお客様の層は、近辺の飲食店で働く綺麗なお姉さんたちだった。

 仕事を終わらせたお姉さんたちの小腹を満たすには十分な量のサンドイッチの横には新鮮なサラダが添えられているし、女の子が喜びそうな小さなデザートも添えられている。

『コンビニのサンドイッチとは違うちょっとの贅沢さ』が人気であるのとママは魅惑的な微笑みを浮かべる。

 コーヒー一杯千円の価値は、豆の拘り、カップの美しさ、そして、手間暇かけて抽出するから価値である。そして、この店で提供される全ての物の金額は世間一般のカフェとはかけ離れていた。
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