冷酷御曹司と仮初の花嫁
 話が終わると、佐久間さんは優しく微笑んだ。

「早く食べないと、第二弾が来る」

「まだあるのですか?」

「ああ。一応コースにしたけど、私が前に食べた時に美味しかった料理も入れて貰っている。食べれるだけ食べて、残したら詰めて貰ってもいい」

「私、結構食べます」

「変に遠慮されるよりはいい」

 時間を見計らったとしか思えないように一気に食事が並び、終わった器が下げられていく。見目の麗しい器の中に日本の美を体現したかのような料理は芸術であり、目も舌も堪能される。あまりにも食べっぷりがいいからか、最後に出されたデザートは何も言わずに、サッと私の方に置いた。

 見上げると、笑いを噛み殺したような顔で頷く。もちろん私は遠慮なんかするつもりもなかったので軽く頭を下げてから遠慮なく美味しく頂いた。お品書きにある順番に食べると、口の中に幸せが溢れてくる。こういう料理の順番は計算尽くされていて、口の中で花が咲いたかのような感じを受けた。

「気に入った?」

「はい。本当に美味しくて。一度は来てみたかった料亭ですから、嬉しいです」

「それならよかった」

 美味しく、見目麗しい料理の数々にうっとりとしてしまった。器の美しさに負けないくらいの造形は圧巻だった。

 私の住む世界とは全く違う。そんなことを思った。

 一応、仮初とはいえ、この人と結婚することによって、私は少しだけ自由になることが出来る。悪い話ではない。でも、少しの不安は残っていた。それはあまりにも住む世界が違うからかもしれない。

 余計なことは話さないけど、かといって面白くないわけでもない。佐久間さんの話す事柄は聞いていて、とっても面白いし勉強になる。口数は少ない人だけど、分かりやすく、私に話をしてくれるのが分かった。静かな穏やかな時間は流れるように過ぎ、私は寛ぎ始めそうになっていた。

< 39 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop