冷酷御曹司と仮初の花嫁
 大学に残って研究をするか、それとも企業に就職して研究を仕事にするかは似ているようでいて、似ていないと思う。どちらにしても大きな選択と思った。人生の選択は色々な場面で訪れる。いつか、私は今日の日のことを思い出すのだろうか。

「碧くんのしたいことを出来るならいいと思うけど」

「将来の安定って大事だと思って」

 私は将来の安定と自由を得るために偽装結婚をする。それに比べれば、碧くんの選択はどちらを選んでも眩しい未来が開かれている。後悔をどうにか誤魔化そうとしている私とは違う。

 それが少し羨ましくもある。

「碧くんにとって悔いのないような道を選んだ方がいいと思うよ。研究がしたければすればいいし、安定が欲しいならそれでもいいと思う。一番は好きなことが出来て、収入が安定すれば言うことないよね」

「女の子はやっぱり安定が欲しいの?」

「私は自由が欲しいかな。安定しないと得れないものだけど」

「自由か。簡単で難しいね」

 私が着替え終わって控室に行くと、碧くんは何かを考えこんでいるようで……。私を見てにっこりと笑った。

「教授にもっと詳しく話を聞いてから決めます。大事なことだし」

「そうね。その方がいいと思う」

 碧くんも自分の道を歩き出そうとしている。私も……。

 歩き出そう。前を向いて。

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