冷酷御曹司と仮初の花嫁
 お母さんが入院してから随分と荷物は減ったけど、それでも荷物はいっぱいある。捨てれるものは捨てるけど、捨てられないものはレンタル倉庫を借りて、そこに一旦預けた方がいい気がする。佐久間さんとのことも先はどうなるか分からない。もしかしたら、彼の気が変わってしまい、この話が無くなったとしても可笑しくない。

 仮初とはいえ、私はあの人と結婚するのだろうか?

 佐久間さんの部屋の隣に引っ越すのに家具は要らない。むしろ、この部屋の物を持っていく方がよくない気がする。今日、一緒に見た部屋に私の私物を持ち込むことの方が違う気がした。離婚した後にあのマンションに住むなんて出来るわけもないから、お母さんが帰ってきたら、少しだけ広いアパートに引っ越しして、穏やかに過ごしていきたい。

 とりあえず寝て。それから動き出そう。

 頭も身体も限界だった。

 シャワーを浴びて、考えることを止めた私は自分のベッドに入ると目を閉じた。疲れが私を眠りの淵に落としたのは簡単なことだった。

 起きたのは昼過ぎだった。

 いつもならもう少し早く起きるのに、今日は一段と良く寝てしまった。

 麗奈さんのカフェで働いた次の日は身体の動きが鈍い。ゆっくりと寝ていたにも関わらず、シャワーを浴びるまでは思考能力が低下している。今日は来週に向けての片づけを始めて、それから、カフェでバイト……。

 疲れそうな一日になりそうだった。
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