冷酷御曹司と仮初の花嫁
「いつまで働けるだろ」

　佐久間さんと結婚するなら、麗奈さんのカフェは早々に辞めないといけないのはわかっている。でも、今の麗奈さんのカフェでの仕事は忙しいけど、とっても好きだった。お金のために働いていたけど、それだけでは無くなっていた。

　麗奈さんがいて、碧くんがいて……。たまに千夜子さんが現れて。

　お母さんが入院して……。私は不安で寂しかった。 そんな私を包んでくれたのは麗奈さんだった。私の居場所を作ってくれた。

　考えても仕方ないけど、考えてしまうから、私は部屋の片づけを始めることにした。片づけを始めると始めるで、たくさんの思い出が蘇るから、なかなか進まない。時間がないとわかっている。

　コーヒーを飲みながら、私は心を無にして片づけを続けた。

　佐久間さんは動きは早く、私が麗奈さんのカフェに行く時間の前に玄関のチャイムが鳴った。

　そこにいたのは綺麗な女性だった。 手には分厚い茶封筒が持たれてあった。

　後ろで纏められた髪は後れ毛もなく整えられ、紺のスーツの襟元には真っ白なシフォンのブラウス。清楚なのに華やかな装いで、黒のパンプスの先までは一点の曇りのないように磨かれていた。

　化粧は派手すぎもせず、華やかで、どこかのモデルと言っても可笑しくないくらいのスタイルで、女の私から見ても完璧な女性だった。仄かに花の香りが漂い、優雅にお辞儀をする姿は目を惹きつけた。


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