君は私の唯一の光

【said 洸夜】




部の奴らが見舞いに来てくれて、嬉しかった。自分は、こんなにも周りに心配してくれる人がいるんだって分かったから。




入院した翌日から、ほぼ毎日『いつならいい？』ってマネージャーの松原から連絡が入ってたが、ずっと断っていた。




だって、乃々花と２人で、いろんな話がしたかったから。サッカーなんて全く興味ないだろうけど、うんうん、ってめっちゃ真剣に聞いてくれるし。どんな話だって、笑顔とか真面目な顔で聞いてくれるから、嬉しかった。




でも、いつまでも断り続けるのは失礼だと思ったから、今日みんなを呼んだ。




乃々花の体調が悪くなったら、すぐに気づいて、ナースコールしないとって思いながら。




そしたら、結局乃々花は腹痛で倒れた。原因は、水分が足りなかったせいらしい。だからあの時、乃々花はお茶を買ってきたんだ。なのに、俺がそれを引き止めてしまった。責任は、俺にある。でも、今更それを悔(く)やんでも仕方がない。




今の俺に出来るのは、一刻も早く、乃々花が目覚めるように、乃々花の手を握って祈るだけだった。




夕焼けに染まった病室。もう2、3時間はこうしている。




「早く、目覚ましてくれよ。」




そう弱々しく呟いた時、病室の扉が開いた。




そこにいたのは、乃々花の兄の翔さんと１組の男女だった。




「乃々………。」




翔さんは、乃々花を一目見ると、俺に目を向けた。




「君は、神山くん……だよね？」




「あ、はい。お久しぶりです。」




「乃々の事、見ててくれて、ありがとう。事情は由奈さんから聞いてるよ。今は、薬で眠っているだけだから、しばらくしたら目を覚ますはずだって。」




「そうですか。」



でも、まだ安心はできない。そう、この部屋の空気が物語っていた。



こっちに近づく女性。
女性は心ここにあらずって感じで、ふらふらしている。




「乃々…。ごめんね、乃々。」




泣きそうなのを必死に堪(こら)える女性とそれを支える男性。２人の様子からして、親子なんだろうと悟った。その場を離れ、病室から出ようとした時、父親と思われる男性に引き止められた。




「神山洸夜くんだよね。斎藤さんから話は聞いています。娘が２度も迷惑をかけてしまって、すまない。」




「いえ、そんな。謝らないでください。むしろ、僕の責任が大きいです。僕の不注意で、乃々花さんは。」




迷惑なんかじゃない。逆に、乃々花がいる事で、俺の入院生活は楽しくなってる。いっぱい乃々花には、力をもらってるのに、俺が来てから２度も、俺のせいで辛い思いをさせた。乃々花だけじゃなく、家族にも。




「いいや。君のせいじゃないよ。」




そう言ってくれたのは、翔さんだった。




「君が、乃々花と同室になるって聞いて、最初は、冗談じゃないって、猛反対した。乃々花は、今まで静かに過ごしてきたのに、なんで元気いっぱいの男子が同室なんだって。」





その通りだ。俺と乃々花は、いろんな面で正反対で、同室なんて、よく考えれば上手くいかない。





「でも、人数の事は仕方がないから渋々(しぶしぶ)承諾(しょうだく)して、せめて、乃々の体調が悪化しない様に願った。なのに、君が来た日に乃々が倒れたって聞いて、自分の判断を心底後悔した。頑(かたく)なにでも、断れば良かったって。」





翔さんは、俺が乃々花に悪影響だって、わかってたんだ。それで、それが初日に証明された。自分の愚(おろ)かさを、これほどまでに呪いたくなる事って、あるんだな。





「乃々花が目覚めてから、少しだけ２人の様子を見てたんだよ。またすぐに、乃々が倒れたら、今度こそ追い出してやるって思って。
でも、君と接していくうちに、乃々は、よく笑って、無表情の時がなくなったよ。時々見舞いに行っても、病室に入る前に聞こえるのは、君と乃々の笑い声だったから。」





そう………だったんだ。俺が乃々花に、いろいろもらってると思ってた。でも、俺も乃々花に、少しでも何かあげられたのかな。





「我が家は代々会社の経営をしていて、父さんたちは出張ばかりで、１か月間家にいない事なんて、珍しくない。俺も学校があって、なかなか小さい頃、乃々と一緒にいてあげられなかった。いつからか、乃々は、死を待ち望む様になった。絶望を知った様な顔。自分たちのせいだけど、見ていられなかったんだ。でも、君が現れて、乃々は、そんな顔しなくなった。だから、俺らは君にすごく感謝してるんだよ。妹を、助けてくれてありがとう。」





ついに、俺の目から涙が出た。こんな風に言われるなんて、思ってなかった。なんなら、罵声(ばせい)を浴びせられる覚悟もしていた。なのに、拍子抜けだ。乃々花の家族に感謝されるなんて、なんかのドッキリなんじゃないかっていうくらい。





「僕の方こそ、乃々花さんと一緒に過ごせていて、この１週間、楽しかったです。大好きなサッカーも出来なくて、友達もいないはずなのに……。乃々花さんの病気の事、斎藤さんに聞きました。僕の周りに当たり前のようにいろんな人がいる事、好きな事が出来る事とか他にもいろんな事が、当たり前じゃないっていう事を教えてくれたのは、乃々花さんです。そのおかげで、見舞いに行くって言ってくれた友達にも、俺が馬鹿みたいに元気に過ごせていることにも、感謝できました。こんな身勝手で、最低な俺ですが、これからも、乃々花さんと仲良くさせてください！」





今まで、あやふやだったこの感情。乃々花と一緒だと、心が和らいで、特別な事なんて何一つしていないのに、物凄く楽しかった。



心では分かってたはずなのに、脳で理解できなかった。こんな想い、初めてだったから。だから、こんなにも時間がかかったんだ。




きっと俺はあの夜、乃々花のこれまでを聞いた、乃々花と初めて会った日の夜から、乃々花に、





堕(お)ちていたんだ。






でも、それを簡単に口にする事はできない。



だって乃々花と俺は今までの生きてきた環境、


感情、想いのとらえ方、









何１つとして、同じものはないんだから。