君は私の唯一の光
暦上では秋。でも、気温はまだ高い。肌で感じた事が無いから分からないけれど、なんとも不思議な9月下旬の今日。





季節の変わり目に刻々と近づいている今、私の身体は、いつ倒れてもおかしくない。





細心の注意を払わなければならない時になった。








『今、授業終わった!あと10 分で学校出て、16時半には着くから、待ってて!!!』





相変わらず、“!”が多いメール。洸夜くんの元気の良さが、全面に(にじ)み出てるような感じ。





『了解。待ってます!』





いつもと変わらないやりとり。でも、大切なひと時。この時間を、終わらせたくない。日に日に、想いは強くなっていった。









16時10分。




朝から調子が悪かったお腹が、ついに限界に達したらしい。お腹が悲鳴を上げている。痛みに耐え、なんとかナースコールを押した。




もう少しで、洸夜くんが来てくれたのに。洸夜くんの顔を見れば、痛みなんて簡単に吹き飛ぶって、思ってたのに。





………………間に合わなかった。






また、心配かけちゃう。罪悪感で、涙が出る。





今はただ、早く痛みが治るように祈るしかなかった。






————目が覚めた。




外は真っ暗で、電気が部屋を照らしていた。




誰もいない。それが当たり前の時間っぽい。




なのに………右手は、誰かに包まれてるような感覚があった。




「へ?」




コード類に繋がれて、上手く身動きが取れない身体。頭だけを右手に向けると、男の子が、ベットに頭を預けて、私の手を握ってくれていた。多分、寝てる。ここからじゃ、顔は見えない。でも、髪や服装で誰かわかった。





「洸夜くん?」





声にならず、呟いた。




どうして彼がここにいるんだろうという驚きと、それ以上にいてくれて嬉しいという喜びが、胸を支配していた。






「なん……で…?」





思いがけない事に涙が溢れた。嬉しすぎて。いつも、倒れて目覚めてから感じる寂しさが全くない。





『洸夜くんがいる。』





夢かもしれない。(まぼろし)かもしれない。それでも、この手を離したくなくて、ギュッと握った。



それと同時に、洸夜くんが勢いよく起き上がった。






「乃……々花…?」






「洸夜くん…………。」





「よかった〜。来たら、ナースステーションざわついてるし、乃々花はベットで眠ってるから、またなんかあったんだって、不安になって。」




「ごめん……なさい…。」





本当にごめんなさい。こんなに心配ばっかりかけて、“彼女”なんて務まらないよね。大好きな洸夜くんに、迷惑かけたくないのに。




悲しくなって、左手でギュッと布団を握りしめる。右手はまだ、洸夜くんの両手で包まれたままだった。




「なんで、謝ってんの?悪い事してないだろ。それより、俺の方こそありがとう。また、目覚めてくれて。朝になってもこのままだと、明日学校行ける気しなかったと思うから。」





なんで、洸夜くんはこんなに優しいんだろう。ダメなのは私なのに、“ありがとう”なんて、言ってもらえるような人間じゃないのに。




「“私なんか”って思った?」





「え?」




ベットを操作して、上体を起こすのを手伝ってくれながら、洸夜くんが言った事に驚く。なんで、私の考えてる事がわかったんだろう。




「そんな顔してた。乃々花って、わかりやすいよね。」





「え……そう?」





自覚ないけど、そうなのかな?言われた事ないから、わかんないや。





「乃々花は、自分を非難しすぎ。乃々花がいる事で、俺は幸せを感じられるんだよ。自分が、いい影響を与えられてる事、ちゃんと自覚しろ。乃々花が生きることで、俺を苦しめるなんて、絶対思うなよ。」



力強く、しっかりとした声色(こわいろ)で言われた言葉は、私の心のシコリを全て取り除いてくれた。私を、必要としてくれてる。その事が、もう1度洸夜くんのおかげで、わかった。私が気にしてる事にいち早く気づいて、それを拭いとってくれる。こんなに優しい人は、私にとって、家族以外で、洸夜くんだけだよ。




「うん!ありがとう、洸夜くん。」




「元気になったなら、別にいいよ。」





相変わらずの眩しい笑顔を向けながら、私の頭を撫でる。この些細な幸せが、私にとっては唯一の至福の時。




洸夜くん、私は君の隣に、ずっといてもいい?
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